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竹林はるか遠く あらすじ 3 船出

軍服を着た三人は京城をめざして歩いていた。擁子の右耳は相変わらずズキズキ痛み、傷ついた胸は軍服に擦れた。しばらくすると日本人らしい男たちがリュックサックと包み、女たちが赤ちゃんをおぶっているのが見えた。母が話しかけここがどこかと尋ねると「遠くに見える茶色の屋根が京城駅です」と教えてくれた。遂に!

いつのまにか三人は避難民の検問所の行列についていた。検問所の警察官がこれからどこに行くのかと尋ねた。母は息子が着くまで京城に留まり戦争が終わったら羅南に戻るつもりだと話した。「戦争は終わった」と彼はいった。私達は驚きのあまり呆然としていた。「いつ?」好は聞いた。「昨日だが、君達は羅南には帰れない。今、朝鮮では、日本人は危険な状況下に置かれている。だから、北からこれほど多くの人達が避難しているのだ」「今日は何日ですか?」また好は聞いた。「8月16日だ。では長崎と広島に原子爆弾が落ちたことも聞いてないのか?」「はい」「日本は負けた」「広島も長崎も地獄そのものだ」突然母が地面に倒れた。

しばらくして母が意識を取り戻した。検問が終わり三人が出発しようとした時、警察官が擁子の怪我の手当をしてやりなさいと言った。屋根に赤十字のマークのついったテントにいた医師は擁子の耳と胸をみて「この子がどうやってここまで耐えてこられたのかわからない。ひどく化膿している」と言った。耳に細長い針金を入れて金属のかけらを抜きだした。母はこれからどうするのかと尋ねられたのでここで淑世を待つと言った。そういうことなら擁子は入院したほうがいいということになり入院する事となる。擁子には母と好が交代で付き添い、付き添わないほうが駅にいて淑世の到着を待っていた。しかし2週間たっても淑世は来なかった。

9月1日医師が母と話した。「患者は全員今月の末までにトラックで釜山(プザン)に向かいます。赤十字船が10月2日にそこから日本に出発することになっているのです。一緒に母国に戻りましょう」しかし母は淑世を待つつもりだと断った。

医師達との別れが来た。皆がひきあげてから三人は駅に戻った。「食料を探してくるわ」と好は言うと空っぽのリュックサックを持ち、ホテルのごみ箱で食べられそうなものを漁りほぼ一杯にして戻ってきた。三人が京城に来て、5週間が経ったある日、好が深刻な事態を知らせた。「私達は京城をでなければいけない。朝鮮人の男達が藪の中へ女の人達を引きずって行くのを見たし、若い女性に乱暴しているのもみたわ」好は震えていた。「女の人たちは金切り声を上げて日本語で助けを求めていたの。今からもう一度私の髪を剃ってくれる?」川で母は私達二人の頭を剃った。それから好をもっと男の子らしく見せるため、ガーゼで胸をきつく巻いた。

「明日の最終の貨物車に乗りましょう」と母は決めた。好と擁子は駅の支柱や木という木に「淑世、釜山へ」と彫った。次の日貨物車の材木の上に乗ることが出来た。三日目に、ついに列車は釜山駅に着いた。駅は満員だった。三人は港の近くの倉庫に行くように命じられた。「私は駅で息子を待たなければいけないのですが」母は朝鮮の係員に話した。「駄目だ!我々はここで独立祝賀会を開く。出て行け!」三人はのろのろと歩き倉庫に着いた。倉庫はいっぱいだった。なんとか隅に隙間をみつけて座る事が出来た。

しばらくして擁子は「お便所にいきたい」と言った。建物の隅に六つの便所があったがドアもなく男女の区別もなかった。擁子の前にいた女性が戸惑いながらズボンとパンツを下ろしてしゃがんだ。母が来て女の人の前に立ってなるべく見えないようにしてあげた。彼女は出てきて戻っていった。すると、突然、助けを求めて金切り声を上げた。振り返ると列の終わりで朝鮮人の男、4人が彼女を捕まえていた。

好のところへ戻ると好も便所へいきたいと言った。母は青白い唇を開いて「胸の包帯はきつく巻いてある?」「好、男の子がするようにするのよ」それ以来、私たちは男の子のように立小便をした。それは悲惨なものだった。しかし身の安全には代えられなかった。その日は悪夢のようだった。独立を祝いながら、酔った朝鮮人が三人の周りにきた。一人が前後にふらつきながら好に執拗にせまった。「お前は男か女か?」「男だ」と好は答えた。「女の声のようだ。触らせろ」「触ってみろ」好は言い返した。

酔った朝鮮人は大きな手を好の胸に当てた。「平らだ」男は言った。「男には興味がない」男たちの集団はさったが彼らは悦楽を求めて人々の間をよろよろ歩き、そして娘たちをみつける度に外へ引きずりだした。たびたび女たちの悲鳴が響いた。

母も好もその夜眠れなかった。翌朝は擁子が食べ物探しに行くことになった。擁子はごみをつつきながら一杯になったリュックサックを頭の上に乗せ戻りはじめた。小さな小川で水を飲もうと立ち止まったとき、擁子は泣き叫ぶ声を聞いた。草むらの中で女性の上に乗った朝鮮人がいた。彼女は思いっ切り男を蹴飛ばしながら金切り声を上げていた。擁子の膝が震え始めた。出来るだけ早くその場を離れ、母と好の元へと急いだ。「これ以上ここにいることは出来ないわ」擁子が見たものを話し終えると母はそう決断した。「私たちは日本へ帰らなくちゃ」しかし、母の目は涙でいっぱいだった。「でも淑世が‥。淑世は朝鮮で一人ぼっちになってしまうわ」

一週間後、貨物船がやってきて百人が日本に行く事ができると知らされた。しかし三人は百人に入ることができなかった。百人は去ったがまた次の百人が押し寄せてきた。三人はその場から離れることができなかった。一週間後、船は戻ったが次の百人にも入れなかった。母は群集の中淑世を探し続けた。再び船が見えた。ついに三人は百番以内に入ることができた。朝鮮人の係員のきびしい検査もとおり三人は船に乗ることができた。

海が朝日の色に染まってきらめき始めた頃、船はゆっくりと埠頭を離れた。「ついにやったわ!もう脅えることはないのね」好は、ゆっくりと消えてゆく朝鮮半島をじっとみつめていた。涙が頬を伝っていた。母の顔も涙がこらえられず、ぐしょぐしょになっていた。
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